冗談じゃない！！(2) (1)←前回のお話はこちら
どうやら、ジョークメールを配信するシステムが
ワームにやられたらしいということがわかったわけです。
486通ものメールをダウンロードするのは結構な時間がかかります。
その間にいろんな悪い考えが湧きあがってきます。
このままずーっと一生、
大量のメールが止むことなく来続けたらどうしよう。
僕のコンピューターがウイルスに侵されて、
アドレス帳に載ってる人たちにウイルスを送信し始めたらどうしよう。
プロバイダに怒られて除名されたらどうしよう。
今すぐ購読中止のメールを配信元に送った方がいいんだろうか･･･
恐る恐る、メールの本文をもう一度よく見てみます。
すると、まったくめちゃくちゃだと思ったそれぞれのメールにも、
共通する部分があることに気が付きました。
ほとんどのメールには、最初の行に
個人の名前らしきものとメールアドレスが書かれています。
そして次の行から、その人が書いたものと思われる
メッセージがあるのです。
すべてのメールを受信し終わるといったん接続を切りました。
このころには僕のパニックはちょっとは収まりました。
何とか現状を把握しようと
一通一通､送信日時の早いものから見ていきます。
おそらくは購読者達からだろうメッセージは､こんな感じです。
｢こんなモノが送られてきた。どうして？？？？？？？？？？？｣
｢どうも間違って送られてきたようです｣
これは､変なメールが来たので
管理者に報告した､という感じです。
｢なんでどんどん来るんだ？？？？？？？｣
｢いったいどうなってるんですか？
これもジョークの一部ってわけじゃないでしょう？
まさかリストを売ったんじゃないでしょうね？｣
管理者に対する苦情です。
｢PrettyParkはワームです。感染したんじゃないですか？｣
ごく早い段階で､こうした推測をした人が何人かいます。
幸い､僕のところには添付ファイルの付いたメールは
一通も届いていません。
なかにはファイルの付いたものを受け取った人も
いるのでしょうか。
そこら辺はよくわかりませんが､
この最初のほうのメールのメッセージには
まだ心の余裕が感じられます。
｢ちょっとごめん。何が起こってるかわからないんだけど。誰かわかる？｣
｢PrettyParkはワームだよ。
メールを勝手に送っちゃうんだ。
もし誰かワームを受け取った人がいたら､絶対に開いちゃダメだよ｣
送信元に返信すると､購読者リストに載っている人全員に
それが転送されてしまうらしいのです。
そのことに気付いて､全員に向けたメッセージを送る人がいます。
時間がたつにつれ､だんだんと
人々のテンションが上がっていくのがわかります。
｢リストを売ったわけではないんですか？
訴訟の対象になるのでは？
説明してください!!
私をリストから削除してください。今すぐに｣
｢ナニダコレハホカノヤツ５ニンカラキテルゾ｣
｢な ん で こ ん な ク ソ を
次 か ら 次 へ と 受 け 取 ら
な き ゃ な ら な い ん だ｣
｢なんのつもり｣
｢なんのつもりなんでこんなモンを送りつけたの｣
｢なんのつもり｣
｢なんのつもり｣
｢なんのつもり｣
｢なんのつもり｣
一人で何回も送っている人もいます。
(あるいはワームが何回も送っているのでしょうか)
５通でブチ切れてるい人もいます。
｢なんで聞いたこともない人たちから
見たこともない変なメールをもらわなきゃならないのでしょう？
リストから除外してください･･･｣
｢私を購読中止にしてください。お願いします｣
｢何が起こってるんだ。この５分間に２０通も来た｣
｢購読中止｣
｢購読中止｣
｢購読中止｣
｢購中｣
｢スパムリストから今すぐ俺を削除しろ｣
購読をやめたい､早くリストから自分を削除しろ､
という要求がだんだん増えてきます。
｢30分間に84通のメールが送られてきた。
もしこのままなんの説明もなければ､
次のメールは弁護士からのものになるだろう｣
｢100通ものメールを受信しました。早くメールリストから除いてください」
｢今日だけで200通以上来た。もうやめて！！！！！！！！｣
｢うーん｣
たくさんの"What"や"Why"が飛び交う一方、
この事態の原因を推測したり
収束へ向かうための提言をしたりする人たちがいます。
｢文句を言うなら、管理者にだけ言ってくれ。
“全員へ返信”ボタンは絶対に押さないでくれ｣
｢そこの“全員へ返信”してるヤツ、やめろ｣
この｢全員へ返信説｣は最初のほうのメールにいくつかあります。
これはどうでしょう。
全員へ返信する人などいるでしょうか。
常識のある人なら、そんなことはしないでしょう。
メッセージが全員に送られていることから、
そういう説が出たのでしょうが、おそらくは誤解でしょう。
「PrettyParkはワームだ。このリストは感染した｣
ごく初期のころからあった、｢ウイルス感染説｣です。
僕はこれが真相だと思っています。
｢リストがウイルスに感染したわけではありません。
今、配信システムの移行が行われているところですが、
その際に設定ミスがあって、
誰かが返信するとそれがリストに載っている全員に
送られてしまうようになったのです。
ですから、みなさんが返信をやめれば
事態は収まります｣
この説では、元のメールの一部分だけが
無秩序に引用されて転送されていることの説明がつかないので
僕は賛成しかねます。
けれども、送信元に返信しなければ
みんなに配られることもない、というところは
どうやら真実のようです。
そのことをほかのみなさんに説いている人がたくさんいます。
｢みんなが返信をやめれば止まるんだ！！！！｣
｢オーケー、みんな、落ち着いて。
はい息を吸ってー、吐いてー。
前にも別のメーリングリストでこんなことがあったよ。
だから僕には対処法がわかってるんだ。
とにかく[無視すること]、これしかない。
頭に来るのはわかるけれども、
我慢して返信をやめれば、
自然と収まるんだ。いいね」
｢読めよケツメド野郎ども！！
返信するなっつってんだろうが！！！！！｣
脅したりなだめたり、いろんな人がいろんな言い方で
返信するなと呼びかけています。
その数は、
ただ混乱して文句を言っている人たちほどではないにせよ、
結構なものです。
そうすると当然次のような意見が出てきます。
｢返信するなって言ってる奴ら、
おまえらがやめろ！！！！｣
ちょっと笑ってしまいます。
こうした真面目なメッセージが大半を占める中、
さすがにジョークの購読者達と言いましょうか、
｢はしゃぎ系｣の人がちらほら混じっています。
｢ははははははははははははははははは」
｢ジョークよりおもしれー｣
｢今までのオタクのジョークのなかで、一番笑った｣
こうした“賞賛”の声が、わずかですがあります。
｢ジョークメールはここだけじゃないんだぞ！！！
例えば、http://・・・｣
と、ちゃっかり自分のところの宣伝をする人がいます。
｢私は貧乏のどん底のオーストラリア人(女)、
29歳、カリフォルニアに住んでいます。
お金持ちの旦那様をさがしてます。
なんて、お金持ちってところはウソよ。
それにそんなに旦那様が欲しいってわけでもないの。
ほんとは、ジョークメールを取ってる人なら
もう一個くらいジョークが聞きたいんじゃないかって思っただけ｣
残念ながらジョークとしては成り立っていませんが、
なかなかの試みです。
｢これを読んでるオレの知り合い、ハーイ｣
｢どっかにいい女いねえか？｣
｢何が起こったのか知りたけりゃ、
今夜の『X-ファイル』を見ろ！！！！！！｣
・
・
・
僕はこれらのメールを1度に受信しました。
受信し終わった時点で、
最後のメールが送信されてから
数時間が経過していることがわかりました。
だからまだ冷静でいられるのです。
しかしこの人達はこれをリアルタイムで経験したのです。
何分かおきにどんどんどんどん
知らない人から訳の分からないメールが来るのは
さぞかし不安なものだったと思います。
混乱に対するリアクションは人それぞれですが、
気持ちは同じでしょう。
これら一連のメールは群集心理の典型的なサンプルなのです。
パニックがさらにパニックを大きくするという。
その日の午後は何度もメールをチェックしました。
新しいスパムはもう来ないようでした。
翌日になってから1通、時間差で届いただけです。
僕が486通のメールを受信したときには
すでに事態は収拾していたようです。
このくらいで済んだのは、
むしろ幸いだったのでしょうか。
午後の早い時間に、このジョークメールを発行している管理者から
メールが来ました。
次のようなアンケートへの投票を呼びかけるものです。
あなたの、このジョークリストに対する評価を
次の10段階のうちから選んでください。
1.ジョークって？
2.ションベン
3.子供のダジャレ並
4.涎を垂らして微笑
5.笑う
6.声を出して笑う
7.ションベンを漏らす
8.涙を流す
9.ケツメドおっぴろげて死ぬほど笑う
10."Re:Fwd:Re: .......C:\CoolPrograms\PrettyPark.exe"
この一件をシャレですますつもりらしいです。
こうなるとさすがに僕もちょっとムカッとします。
文字通り｢冗談じゃない！！｣という感じです。
この大量のスパムメールの
忌まわしい件名をネタにするのは、
被害者の立場からすると笑えないものがあります。
もし誰かが送りつけたワームのせいであるなら
管理者が全面的に悪いわけではないのですが、
一言くらい｢ごめん｣と言ってくれてもよさそうなものです。
謝ってしまうと訴訟を起こされたときに不利になる、
ということなのかも知れません。
日本人的感覚ではそれは逆効果なのですが。
しかもこのメールまで広告付きなのがまた何とも。
ちょっとしてからアンケートの結果が送られてきました。
1.ジョークって？ 5票 6.49%
2.ションベン 2票 2.60%
3.子供のダジャレ並 4票 5.19%
4.涎を垂らして微笑 2票 2.60%
5.笑う 4票 5.19%
6.声を出して笑う 6票 7.79%
7.ションベンを漏らす 0票 0.00%
8.涙を流す 1票 1.30%
9.ケツメドおっぴろげて死ぬほど笑う 8票 10.39%
10."Re:Fwd:Re: .......C:\CoolPrograms\PrettyPark.exe" 45票 58.44%
答えた人がいるのにはあきれますが
10以外に入れた人がこんなにいるのにもびっくりです。
この人達がシャレですますことにしたのか、
カンカンに怒っているのか、
判断がつきかねます。
あれから10日余り立ちますが、
まったくなしのつぶてです。
通常のジョークさえ来ません。
やめちゃったのでしょうか。
確かにあれだけ怒られれば
そうなってしまうのも仕方ありません。
もしかしたら
毎日毎日くだらないジョークを送り続けて、
いい加減いやになって
わざとあんなことをしたのかも知れない、とふと思います。
その気持ちは痛いほどわかります。
今回表面化したように、
購読者からの苦情にもきついものがあったのではないでしょうか。
｢おもしろくない｣などといわれるのは宿命とも言えるのですが。
笑いを生業とするものが
最後に破滅に向かったのだとすれば、
それはそれで、きれいとは言えないまでも
アリな終わり方としておきましょう。
とかいってる間にちゃっかり復活するかも知れません。
もちろんお詫びひとつなく。
冗談じゃない！！(1)
冗談じゃない！！(3)
|