サカモトでお願いします
僕のようなものは自分の名前で領収証をもらうんです。
「宛名様は？」って訊かれたときに
「“坂本”でお願いします」と答えるわけです。
いちいち面倒だと思うこともありますが、
少しでも名前を世に広めるために
あえて「上様で」とかではなく
「サカモトで」と発声するのです。
考えてみれば店員さんもプレッシャーです。
人の名前を音で聞いて漢字で書くのは
なかなかおっくうなことです。
ましてや大事なお客様の名前です。
間違おうものなら親方にどんなお仕置きを
されるかわかりません。
なかには
映画の爆弾処理のシーンで赤い線と青い線の
どちらを切るか、と迷っているときのように
ボールペンを持つ手が小刻みに震えている店員さんもいます。
「サカモトで」に対する返しとして多いのは
「ツチヘンの坂でよろしいですか？」
というものです。
僕は「はい」と答え、
店員さんはすんなり「坂本」と書いてくれる、
というパターンが一番頻度の高いのやりとりです。
なんにも訊かずにいきなり「坂本」とお書きになる店員さんも
それと同じくらい多いように思います。
「普通のサカモトですか？」と言ってから
「坂本」と書く人も多いです。
「サカ」と「モト」の両方とも確認する人も結構います。
「モト」だけ確認する人は比較的少ないようです。
どんな筋道をたどるにせよ
おおむねヒット率は高く、
その点では竜馬氏や龍一氏に感謝って感じです。
けれども、何も訊かずに「坂元」と書く人も時々います。
なかには「普通のサカモトですか？」と訊いてから
「坂元」と書く方もいます。
「サカは普通の坂ですか？」と訊いてから
「坂元」と書いたり。
土地柄とかいろいろあるんでしょう。
「モト」は結構ノーチェックで「元」の人が多いです。
ちょっと「う」とか思いますが、別に訂正はしません。
「阪本」というのもあります。
これが普通だと思っている人もいるようです。
周りにそういう人がいるのでしょう。
まあこの辺までは一応自分のことだと思えるのです。
しかしなんにも訊かずに
「阪元」
と書かれたときは
さすがにちょっとショックでした。
誰のことだかもう・・・
直してもらいはしませんでしたが。
この日本にはそのほかにも
「酒本」さんや「酒元」さんがいるらしいです。
ここまで来るとむしろ
そう書いてくださる方に出会いたいくらいです。
以前文房具屋さんのレジで
僕の前に並んでいた人が
「ホリサシで」と言ったときには
体がビクリとしました。
店員さんが
「普通のホリサシですか？」
と言ったときにはちょっと体が浮きました。
後から考えてみれば、
「堀刺」
くらいしか漢字が浮かばないわけなのですが。
僕はこれからは「“坂本タクマ”で」
と言うことにしようかとも考えています。
ちょっと照れますが坂本タクマのネームバリューで
必ずや「坂本」と書いてくれることでしょう。
「タクは卓球の卓ですか？」とか訊かれたらどうしよう。
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